2016年9月14日水曜日

「蛍草」連城三紀彦


『流れのむこうに、月がある。
 川は東へと流れているから、今のぼったばかりなのだろうが、薄墨に掃かれながらも夕かげ
の残った空の端に、薄く透けている白い月は、今から沈んでいく残月のように見えた。光が、
まだ暮れきっていない空の色に負けていた。
 昭次は橋を渡りかけた足を止め、その月を眺めた。
 昨夜荒れ狂った雷雨を最後に、夏は逝ってしまったのだろう、激しい雷が空の一隅に落とし
忘れていった光の一雫(ひとしずく)とも見える月は、もう秋色の静かさである。・・・』


 1984年第91回直木賞を「恋文」という作品で受賞している連城三紀彦様の作品から、1988年に発表なさった「蛍草」という5つの短編小説の出だしも出だし、冒頭部分の引用です。

 如何ですか、イイでしょう。
 この出だしだけでもこの作家の、この作品の質の良さがわかります。
 時を惜しんでも読了したくなります。明日は十五夜様ですが、この時期にふさわしい書き出しの作品があるはずと、見つけておいた連城三紀彦ワールドでございます。

 きりがない程に沢山の賞を受賞してますが、彼の作品群にはミステリーも数多く、又、男女の機微を描いた作品も沢山残しました。それらの作品群からは想像もつきませんが、早稲田政経学部卒にして真宗大谷派のお坊さんでもあります。1985年に東本願寺にて得度してますが、その前年に直木賞を受賞した次第です。
 ただし残念なことに3年前に胃がんでお亡くなりになっています。私より二つ若い1948年生まれにて65歳の生涯でした。

 お断りしておきますが、前回の書き込みとは何の関わりもございません(とは、少し嘘っぽいですね)。

 かのこ庵の駐車場にはススキが、そしてコスモスが咲き始めました。
 そんな季節のうつろいを、表現された作品を、8月中に見つけ出しておいたのです。


 今回は「蛍草」の文章の段落に合わせるべく1行の文字数を多めにしました。従って文字が小さく多少読みずらいかと思いますが、お許しください。全く同作品と同じ段落にさせて頂きました。

 
 先週より「新芋にて『芋ようかん』」発売を開始いたしました。

 蚊に刺されながら明日のためにと、永野川上流の土手でススキ取りもしてきました。定休日でも庵主は医者に行ったり休めないのです。更に来週の定休日は開店してます。
 お彼岸中なのですねー。
 十月には連休する予定です。
 出来るかな?


 店頭に咲いている小菊です。  
 その先に見える植物は「さしも草」です。よく成長しているのがお分かり頂けますでしょうか。 

2016年9月11日日曜日

芥川賞・直木賞

 朝晩はいつの間にか、かなり過ごしやすくなりました。
 日照時間も短くなっているのを実感します。
 思い出すまでもなく、昨年の今頃は例の集中豪雨の被害騒ぎの中でした。あれ以来いささかシステムは改善されたようですが、台風襲来の度に胸騒ぎがします。

 それにしても、書き込む予定の事柄を忘れてはいないのですが、結果として別な事柄を書いています。

 振り返ればこの夏は読書三昧の日々でした。以前ですとパソコンを開いて、無料の動画や、関心ある事項の検索が中心でした。それが暇な時間の殆どを読書に充てていた気がします。
 それも、むづかしい話の本はできるだけ敬遠し、読み流せる感じの本を中心に。できれば250~300ページ程度の、つまりあまり分厚くない本を。
 猛暑をやり過ごすためですか。

 従って、というか当然の如く今年度上半期の「芥川賞」、「直木賞」の作品も読み流させていただきました。
 
 少し意地悪な書き方をさせてもらいます。新聞や週刊誌等の書評欄でのこれらの作品はかなり高評価を得ていた、と思います。しかしどうにも数十年前の受賞作に比べると、何とも些か小粒になってきている気がします。数十年前に受賞なさった小説家は、皆さん既に現在では文壇の大御所でもある訳ですが、受賞後も含めて、その後、かなり輝かしいご活躍をなさっています。
 残された小説群には、素晴らしい、又、地味であっても味わい深い作品がございます。そういう意味でいうなら、今後の作品に両賞の作家さんたちに大いに期待することになりますか・・・。

 「芥川賞」受賞作は村田紗耶香さんの「コンビニ人間」でした。
 誠に個人的な辛口評価になりますが、かのこ庵の隣にはファミリーマートがあり、そのオーナーとは40年ほど前からの知り合いでもあります。店員さんも古参の方が多くよく会話も致しますが、ある意味同じ流通業として、その内情には嫌でも詳しくなっています。ですから、その内部のシステムや、マニュアルにも詳しいといえます。そういうことを知らない方には、それらも面白く感じるのかしれませんが、読後感は、少し通常の女性ではない主人公の人生の一部を書いたものと言えます。
 ページ数は151頁でした。これは批評には関係ないですね。
 私には、ただそれだけの事ではないか。ん、それで「芥川賞」と思えてしまうのです。
 「芥川賞」の価値が相当下がった印象となりました。

 「直木賞」は荻原浩さんの「海の見える理髪店」という作品です。
 関係ないですがページ数は234頁にて、6作の短編集です。

 過去、沢山でもないですが、己が読みし小説の書評を書き込んできました。そして必ず当該作品中の一部文章を引用し、その作品の良さや輝く部分を書いてきたつもりです。
 どうも今回、それが見当たらなかったのは私の頭が脳煮え状態だったからかもしれません。6作目の「成人式」には少し心を揺さぶられましたが、1作目は本書のタイトルにもなっている「海の見える理髪店」でした。
 しかし、いかに何でも調髪してくれる目の前の鏡に、理髪店の眼前に水平線広がる海が見えた、としてもです(シチュエーションはいいと思いますが)。
 調髪がいかに丁寧で、懇切で上手であったとしても、その主人のほぼ全人生を一回の調髪時間内に全て聞かされる客も客ですよねー。それがいかに波乱万丈であったとしても。
 私はどちらかというと理髪店にて調髪中は概ね目を閉じて、居眠りをしています(起きてはいても)。何よりもそこのオーナーとの会話で意味ある会話が少ないからです。その一方で結構あっちこっちの理髪店を経巡っては来ましたが、どうして理髪店の店主というかオーナーは話が好きなんですかねー。サービスのひとつ思っているようですが、常に何か話す題材を考えている気がします。私は半分はリラクゼーションの貴重な時間として捉えておりますので「うるさい!」と言わないまでもそんなお店には二度と行かないようにしていますが。

 何ともあまりお勧めできない、書かなくてもよい事を書いてしまった今回の書き込みでした。

 しばらく忙しくなりそうです。
 昨年同様、大口のご注文が入ってきてます。ありがたいことですが、涼しくなるのを頼りに乗り切りましょう。