2014年7月18日金曜日

神吉拓郎

 何とも梅雨入り以降、気の持ち様が少々弛緩してしまいました。 
 書き込みの滞りお詫びします。


 昨日、直木賞と芥川賞作家の発表がございました。第151回になるそうですが、65歳になられる黒川博行さんの直木賞受賞は近年続いていた若手作家群を押しのけての受賞でして、快挙に近いものを感じます。早速、読ませていただきますか。


 ところで、この2週間ほど、第90回の直木賞受賞者の「神吉拓郎」様の作品を中心に読みふけっておりました。短編小説の名手として、又、食に関する叙述の素晴らしさを美食を堪能するが如く味合わせていただいておりました。
 情景の異なる連作短編集でありながら、各作品それぞれの趣向を凝らしたストーリーにスーッと入り込んでいけるその力量に感心します。
 直木賞受賞作「私生活」、「夢のつづき」、「ブラックバス」、「洋食セーヌ軒」・・・。キリがないですね。本棚から引っ張り出して一冊読み始めたら、止まらなくなってしまいました。

 それにしても、例えばある料理に関しての叙述には、今のテレビに登場する俳優さんたちのグルメ評のボキャブラリーの貧困を何とも苦々しく思い起こさせられます。
 開高健先生の食事に関する記述には、徹底した透徹の眼差しと、その語彙の沸騰に作家としての格闘的な、挑戦的ともいえる表現を感じ取ってしまいます。それはそれで大好きな一つの大きな要因でもあるのですが、神吉拓郎様には、短編ゆえにそぎ落としていながら、その味わいの奥深さを感じます。どちらかといえばあまり得手ではない牡蠣フライですが、「洋食セーヌ軒」の牡蠣フライは試してみたくなります。
 作中の話ですから現実には無理ですが。
 もっとも、当時実在するモデルのお店があったとしても30年近く前の小説ですし、神吉様は今から丁度20年前の6月28日に65歳にて早世しております。でもそのエッセンスとでもいえる文章の一部を以下に記して今回の書き込みは終わりです。


 『牡蠣フライは、揚げたてでもあり、揚げ具合も頃合いにできていた。
 かりっとした熱い衣の下から牡蠣の甘い汁がたっぷりとあふれ出てくる。それがレモンの香気や、刺激的なウースター・ソースの味と渾然として、口いっぱいにひろがる。思わず、目が細くなるようだ。
 それが十年前の味と同じなのかどうか、よく解らないが、確かに鎌田好みの牡蠣フライの味であった。ラードの匂いが高く香ばしい。金茶色の、少し濃すぎる位の揚げ色はもう数秒で揚げすぎという位のきわどい手前で、上々の仕上がりになっている。それでいて、なかの牡蠣の粒は、まだ生命を残して、磯の香をいっぱいに湛えている。
 うまいな、と、鎌田は、心の中で呟き続ける。
 次々と牡蠣フライが、のどを過ぎ、胸を下りて行く。胃のあたりがすっかり温もって、まるで春の日差しを浴びているような気がする。』
 作中の主人公、鎌田が10年ぶりに思い出して食べに行った洋食屋の牡蠣フライの場面です。

 又、少しづつ書き始めます。

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